※ 本編執筆以前のプロトタイプということで、プラチナの言動に本編とは若干のずれがございます。ご注意ください!!


突き出された拳を避けようともしなかった。そんなものは先刻承知だとでも言うように。
左頬を一片の容赦もなく殴り、地面に尻をついたところを胸倉をつかんで引き起こす。衝撃でトレードマークのサングラスは飛んでしまっていたので、久しぶりにこいつの瞳を見た、と場違いなことをちらりと思う。すぐかき消して強く睨む。
「なぜゆかりを連れていった」
殴られた男――プラチナは、ただ静かにこちらを見返すばかりだ。ますます苛立つ。
「他にあてがあると言ったろう!月宮はどうした。木霊(コダマ)は、鐘城(カネシロ)は」
「木霊は代替わりしたばかりで不安だって、長老が。鐘城はなんだか面倒ごとに巻き込まれてるらしい。ま、彼らは遠いし、元々期待はしてなかったけど。で、本命の月宮は」
彼はなぜかそこで言葉を切って、より深く澪の瞳を覗き込むようにした。目をそらしそうになる自分を叱咤し、睨みつけたまま気取られないように唾を飲む。
「勿体ぶるな」
「あの家が傾いていく、そもそもの発端になったのが月宮から嫁いできたっていう先代当主の嫁らしい。長男を産んでしばらくして彼女は出奔したそうだ。先代の弟と。それがきっかけでミシルシサマのご機嫌が悪くなり今に至る、と。結(ゆい)ちゃんに言われたよ、月宮の人間が顔なんて出そうものなら半殺しどころじゃすまないって。そんなこんなで代わりが見つからなかったというわけ」
「そんな、」
怒りで息が切れる。
「そんな情報知ってたなら尚更、何が起きるかわかっていたろう!」
「ミオちゃん。ゆかりちゃんね、大学時代に月宮の男の子と友達だったんだって」
予想外の言葉に思わず手がほどけた。ようやく解放されたプラチナは襟元を正すようにし、次いでサングラスを拾おうと腰をかがめた。そのまま少しも調子を変えずに言葉を続ける。
「あの子がどこまで知ってるかわからない。けど、敵になる可能性は十分あるよ」
「な、」
「偶然にしちゃ出来過ぎだ。壊神の血を引き、月宮の知り合いで、霊能力に長けている。そして今、彼女のごく近くに無縁断世とパラノイドサーカスがいる」
ようやく顔を上げた幼馴染の瞳は、もういつも通りに隠されている。
「今回、彼女を同行させたことにそういう意図はない。ミオちゃんの愛弟子をむやみに疑うつもりはないさ。ただ彼女が敵に回るなら容赦するつもりもない」
ヒーローだからね、と軽く呟いてうっすら笑うプラチナはなぜか泣いているようにも見えて、澪はそれ以上何も言うことができない。

【2012/03/11 記】


(2013.11.16)


モドル