「だーかーら、この格好のどこが問題なのよう」
「何度も言ってるだろう、暑いからって肌を出しすぎだ。ツキタケの教育上よくないからやめろ」
「こんなの普通ですー」
「普通じゃないですー」
「私に言う前に澪さんに言ってくださいー」
「刺されるからやだ」
もうおまえら付き合っちゃえよ。
少年漫画(ジャンル:ラブコメ)における主人公の友人が吐くような台詞をかろうじて飲みこみ、代わりにコクテンは盛大なため息をついた。仲睦まじく“喧嘩”する二人にはそれも届かなかったようで、耳障りな言い合いはまだ当分続きそうな気配だ。
へし折っちゃおうかなー、暑いし、と呟いたコクテンにぎょっとした表情でマフラーの少年が振り向いた。冗談……ですよね、となぜか敬語になる彼に、冗談で済ませたいならアレ止めてきてと言いかけて、
「ワッツハプン?どうしたんだいコクテン」
「キヨイ!!」
恋する少女は一瞬で目障りな人間共のことを忘却した。
「どこ行ってたのよーう」
忙しなく羽をはばたかせながらまとわりつく彼女を邪魔にするふうもなく、キヨイは涼しげに微笑む。
「明神がアイスを買いに行くというからついて行った。パピコを見てみたかったからね」
「パピコ?」
「ガリガリ君、ホームランバーと並んで日本の三大アイスと呼ばれる、アイスの王様だよ」
そうなのか?横で聞いていたツキタケは一人首を傾げる。そんなのオイラ初めて聞いたぞ。
少年の疑問をよそに、妖の少女はうっとりした表情で想い人を見つめる。
「キヨイは何でも知ってるのねえ」
「いや、このまえゆかりが教えてくれた」
途端にコクテンはぷうと膨れた。騒がしい言い合いを思い出したこともあるし、そもそもキヨイの口から女の名前が出るのは気に入らない。どうしたの?と目で問いかける彼に、
「あいつらさっきからうるさいの」
訴えれば彼は、ああ、と孫を見る祖父のような表情になった。
「あの女も物好きよねえ、どうしてあんな陰気野郎がいいのかしら」
まあキヨイのことを好きにならないならどうでもいいんだけど。まして人間のことなんて。一人ごちるコクテンに、傍らの美青年は幾分憂いを含んだ声で、
「死なないからじゃないかな」
と呟いた。
「へっ?死なない?」
そりゃもう死んでるんだからこれ以上死にようはないけれど。面食らったコクテンに、一瞬おっと、というような表情をしたキヨイは、
「それよりコクテンもパピコを見にいかないかい?なかなかビューティフルな形をしているんだ」
と誘った。
キヨイの提案に否という理由などどこにもない。喜びいさんで太陽の下に出ていく皇帝コウモリの末裔は再び、今や日本の教育問題にまで話を飛躍させた、コートを纏う青年とキャミソールの女性のコンビを意識の彼方に追いやった。


【2012/03/14 記】


(2013.11.19)


モドル