下半身がばらばらに砕け散るような痛み。 白い光。 大勢の人の気配。声。器具がぶつかり合う音。 掌の感触。 滝のような汗にまみれて温度の感覚などとっくになくなっていたのに、不思議とその温かさだけはわかった。 ちぎれそうな強さで握りしめる。どんなにか痛いだろうに、繋いだ手は決して離されない。 達彦。 達彦。 達彦。 想像を絶する痛みと気を失いそうな疲労の中で名前を呼ぶ。何度も、何度も。そのたびに律儀な夫はうん、うんと応えてくれる。痛みとは関係なく涙があふれて視界が余計にぼやけた。その間にも戦いは着実に進んでいく。私の脚の間を押し出されていく塊。痛くても苦しくても前進をやめない、今まさに生まれ出んとする小さな命。 私の娘。 私が呪ってしまったかもしれない娘。 どうか、どうか無事に。 「次で生まれますよ!」 天啓のように響いた。最後の力を振り絞る。波が来る。逃がさない。乗る。 気が狂いそうな激痛の向こう、たしかにまっすぐ伸びる道が見えた。 ずぽん、というような感覚と共に異物感が消え、一瞬の静寂。 産声。 わっと空気が華やぐ。何も知らない娘はこの世の空気の冷たさに驚いたように泣き続けた。声。器具が触れ合う音。つないだ掌からたとえようもない幸福感が流れ込んでくる。 今や痛みの代わりに全身を覆いはじめたそれに身を任せ、私はゆっくりと目を閉じた。 【2012/02/23 記】 (2013.11.08) モドル |