「朝だ」 「うそだ……」 ガクは最近、ピコピコハンマーの柄を使って物を移動させるのがやたらと上手くなった。目を瞑ったまま周囲を探るが、残念ながら愛用のタオルケットはゆかりの手の届かないところにまで飛ばされてしまったようだ。 「言ったよな?明日は早いんだからさっさと寝ろと」 「言いました……」 「ツンツクザルによると2時を過ぎてもまだおまえの部屋には明かりがついていたそうだが」 「…………」 「寝るな!!」 彼方に浮遊しかけた意識を呼び戻すように肩を引かれて仰向けになった、途端に眉をしかめたゆかりである。夏の太陽はめざめが早い。南向きの自室はすでにたっぷりの陽光に侵食されつつあった。ゆかりの私物の中では数少ない高級品、一級遮光カーテンを開けた犯人は一人しかいない。 「ひめのんが弁当を作っている。おまえに料理の才能がないのは知っているが、詰めるくらい手伝え」 「アナタには血も涙もないの……」 「ない。死んでるからな」 ふんぞり返るコートの青年を恨めしげに見上げ、ゆかりはしぶしぶ体を起こす。 徐々に働きはじめた五感のうち、まっさきに刺激されたのは嗅覚。うたかた荘一、働き者の女子高生は油の始末も厭わずに朝から揚げ物に勤しんでいるらしい。今時の若者には珍しいくらいの主婦っぷりに心の中で感嘆の言葉を捧げながら鼻をひくつかせると、傍らの青年がニヤリと笑った。 「なんですか」 「あのウサギそっくりだったぞ」 彼は珍しく朝から機嫌がいいようだ。 対して圧倒的に睡眠の足りないゆかりは、いらだつ気持ちを表に出さないよう懸命に努力した(この場合、自業自得なので仕方ない)。だが、このくらいの仕返しはいいだろう。 「グレイさんに言いつけてやる」 「そんなもの怖いもんか」 「それで出かける前の一番忙しいときに喧嘩になって、姫乃ちゃんに怒られて、二人だけお留守番になればいいんだ」 「なっ、起こしてやった恩人になんたる仕打ちか!!」 「どうしたんすかアニキ」 壁からぴょこりと顔を出したのはツキタケ。 いつ見ても起き抜けのように元気よくはねる癖毛を軽く撫で、ゆかりは軋むドアを開けた。元々寝起きはいいほうなので、意識はもうすっかり覚醒している。はからずもその手伝いをしてくれた張本人は後ろで何やら喚いていたが、歩みは止めない。 ――ツキタケ君が変なことを言うから。 祭りの夜の唐突な問いは子供らしい性急さによるものだとわかっているし、また上手く受け流すこともできたと思う。実際、そのような感情を抱いた覚えは一度もないのだから気にしなければいいようなものだけれども、以来ガクとはどうにも顔を合わせにくかった。 しかもあの青年は、血縁の気安さがそうさせるのか以前よりもよくゆかりの部屋に出現するようになっている。 ため息をつき、窓を見た。よく磨かれたガラスにうっすらと映る女の顔は、夜ふかしのせいでいつもより青白くむくんでいる。 スポーツ選手が試合前に気合を入れるように、両手で頬をパンと叩いた。 見渡すかぎり青が広がる申し分のない上天気。今日は以前から皆が楽しみにしていた、千葉県のとある海水浴場に出かける日だった。 細身のTシャツにハーフパンツという随分ラフな格好をした白金は、けれどトレードマークのサングラスを外さぬままに微笑んだ。 「珍しい組み合わせだね」 「笑いごとじゃないですよ」 二台の車に分乗するメンバーはあみだくじで決められた。もちろん、こういうことを発案するのは9割がた明神だ。結果、白金の愛車にお世話になることになったのは明神、ゆかり、ツキタケ、アズミの4名。ちなみにパラノイドサーカスは、狭いところは嫌だとのことで飛びながらついてきているはずだった(この後、不意打ちのようにさかさまに顔を覗かせる彼らにゆかりたちは厳重な抗議をすることとなる)。 グループのメンバーが判明した瞬間、ゆかりはみずから助手席に座ることを宣言した。表向きは《この中で一番ナビに向いているのは自分だろうから》という理由だったけれど。 「帰りもアミダしましょうね、明神さん」 「うん?いいけど」 スナック菓子に夢中な明神の生返事に白金が意味ありげな視線を寄越したので、ゆかりは肩をすくめてみせる。この男(ひと)は何もわかっていない。もう一台、澪が運転するワゴン車に乗り込みながら不安げにこちらを振り向いた少女が何を考えていたのかなど。 と、 「あれ?」 窓の外側、飛ぶように過ぎた風景にゆかりは目を凝らした。うたかた荘の最寄、西咲良山駅。そっけないコンクリートで覆われているだけのはずの駅舎の壁が、何やら賑やかなことになっていた。 「あー、何か絵ぇ描くんだって。シセイ90年の記念らしいぜ。十味のじーさんが言ってた」 「姿勢?……ああ、市制ですね。へえ」 ちらりと見えただけではあったが、頭にタオルを巻き、カラフルな模様のTシャツの袖を肩までまくりあげた《それらしい》人がそういえばいたようだ。色とりどりのペンキの缶がなんだか文化祭のようだった。 「ゆかりんも食う?」 「あ、どうも。じゃあ白金さんの分も」 「ありがと。ゆかりちゃん、悪いけどついでにそのコーヒー開けといてくれる?」 せわしなく動く大人たちに比して小さな子らはおとなしい。ツキタケはしきりに後ろの車を気にかけている。そしてアズミは。 「どした、アズミ。車酔いか?」 大好きな管理人の問いにも首を横に振るだけの彼女に明神はちょっと思案げな顔をしたが、結局優しく笑ってその頭にポンと大きな掌を載せた。傍目にもこわばった体から少し力が抜けるのを横目で確認し、ゆかりは何食わぬ顔で前を向く。 「アズミはなぜユカリのそばに寄り付かないんだろうね」 「おおっと直球」 異形の美青年はいつも通り厚いコートと耳まで覆う帽子をその身に鎧わせたまま、波間に漂うゆかりを見下ろしている。浮き輪に手をかけ、時折寄せる緩い水のうねりに身を任せながら、ゆかりは浜で遊ぶ子供たちを遠く眺めた。姫乃にアズミ、それにコクテン。 大海原に似つかわしくない普段の格好でいるのはコクテンだけだった。まず、姫乃が身につけているのは下がスカート形になっている可愛らしい桃色のビキニで、大きなフリルが付いたそれは彼女のすんなりした脚によく似合っていた。さてその隣、砂で城を作る姫乃をじっと見つめているらしい小さな少女は、いつも身につけている服と同じく綺麗な赤色をしたワンピース水着を纏っていた。金魚のような後ろ姿は姫乃に負けず劣らず愛らしい。 「私、ゴウメイさんとかガクさんより怖いですか」 「ハハ、それはないだろう」 すい、と顔を寄せるバフォメットにゆかりは後ずさろうとしたが、生憎とこのあたりは足が付かない程度の深さがあった。一方キヨイは水面に触れるか触れないかのあたりを器用に飛びながら、澄んだ眼でゆかりの瞳を穴のあくほど凝視する。 「麗人に間近で見つめられると心臓に悪いんですが」 「褒め言葉Thank you, でも僕は《人》じゃあないよ……でも、君は本当にヒトなのかな?」 「は、」 さんさんと降り注ぐ太陽光にふさわしくない艶めいた笑いを浮かべて、西洋の悪魔は言葉を続ける。 「たとえば売れない駆け出しの貧乏作家というのは仮の姿で、実は君は世界を滅ぼす野望を持った悪の組織のボスな陰魄っていうのはどうだろう。アズミはその本質を見抜いているから近づかない」 「……笑えない冗談ですね」 「どういう意味で?」 「パラノイドサーカスの首領に言われるというのが一つ、ひどい言いがかりだというのがもう一つ」 ゆかりはそこで口を噤む。急に日差しの強さが増したような気がした。 キヨイは静かにゆかりを見つめたままだったが、やがてその笑顔からいくぶん毒を抜いた。 「気に障ったのなら謝るよ、Sorry. ほんのジョークのつもりだったんだ」 「いえ、私もちょっとナーバスに反応しすぎました。すみません、寝不足で」 このことは水に流しましょうね、海だけに。ゆかりの渾身のジョークは残念ながら日本語を母国語としない彼には通じなかったようだ。 「あ、はい、わからないんならそれで結構。ところでキヨイさんは泳がないんですか」 「この格好でかい?」 大きく傾げた体を元に戻しながら、キヨイはオーバーに両手を広げる。 「霊だって頑張れば服は変えられるんでしょう」 言いながら、沖のほうで素潜りを繰り返しているうたかた荘の男性陣を見やった。普段はまるで真冬のような格好の陽魂たちは、今やひしめく海水浴客にすっかり紛れてしまう《フツー》の水着姿になっていた。ただし、なぜかガクは上半身に羽織ったパーカーを頑なに脱ごうとせず(まあ、彼らは水に濡れるということがないので問題はない)、それはおそらく案内屋たちへの対抗意識からくるものだろうと思われた。彼らは仕事柄かなり逞しいのだ(かなりやせ型の白金でさえ例外ではなかった)。そんなの気にしなくていいのに、とゆかりは思ったが、往々にしてこういうことには口を出さないのが吉である。 一方、問われたキヨイはコメディアンのようにくるりと中空でターンを決め、憂いとも呆れともつかない表情で額に手をやる。 「Oh,my God」 「え、それキヨイさんが言っていいんですか」 「霊の見た目は魂そのもの、着替えるみたいに簡単にchangeするなんて僕にはとても信じられない」 「無視か!……そういうものですか」 「そういうものだよ」 したり顔で頷く彼は、そういえばなぜ随分と寒そうな格好をしているのだろう。今更ながらそんなことが気になった。キヨイだけではない、ガクとツキタケも、……ああ、彼らは。ならば。 一転して感傷的な気分に陥りかけたゆかりの意識を奪ったのは、のどかな空気を切り裂くように響き渡った甲高い悲鳴だった。 辺りの視線が一斉に集まる。にわかに注目の的となったのは、ゆかりよりも少し年上に見える若い女性。小さな両手は口元に当てられ、その顔色は真っ青だ。足元には発泡スチロールの器に盛られた焼きそばが無残な姿を晒していた。 「あれ、あそこ、ひとが」 ぶるぶると震える右手をどうにか伸ばし、女性は沖の方を指す。自然、視線はそちらを向く。 明神やエージが遊ぶ場所よりもはるかな彼方、安全な海水浴を楽しむにはいささか遠すぎるのではないかと思われるそこで、さかんに飛沫が上がっていた。 白く跳ねる海水の隙間に、小さな小さな手が踊る。 あれは、子供だ。 ギャラリーは一様に息を呑み、次いで忙しく互いを見た。泳ぎに自信のある者はいるか、レスキューを呼ぶのが早いのか。分別のある大人ほどこんなとき咄嗟には動けない。 と、《その場所》よりもやや浜辺に近い海面に猛然と白い波頭が立った。それも二つ。 手に汗握り事態の推移を見守っていたゆかりは、そこでようやく肩を下げた。《彼ら》が行くなら大丈夫だ。だって、 この場で何人の人間に《見え》ているのかわからないけれど、 必死に助けを求める幼子の周りでは無数の黒い腕が蠢いている。 およそ人とも思えぬ速さで目標地点に達した二人の男は同時に海中深く潜り、 数秒の後、おぞましい腕の大群は視界から消えた。 必死にもがく肌色の手を道連れに。 耳の痛くなるような静寂が浜を覆う。 1分か、2分か、それとももっと経ったのか。 まるで何事もなかったかのように海は穏やかな表情を取り戻している。 「ユカリ、」 浮き輪から手を離した。 一度沈み、思い切りバタ足を繰り出そうとしたゆかりの爪先は滑らかな手にグッと掴まれる。そのまま強く後ろに引かれ、反作用で前に出た《彼女》は、弾丸のようにゆかりが目指すはずだった場所へと向かった。 透明な水に揺れるのは白と黒が混ざった長い髪。人魚のようにしなやかなその動き。 したたかに海水を飲んだゆかりがようやく平常の呼吸を取り戻した時には全てが終わっていた。 浜は一転、やんやの喝采で溢れている。白金に抱きかかえられているのはよくは見えないが少年のようで、いつ到着したのかひと目でライフセーバーとわかる派手な格好の男性が救命処置を施していた。ほどなく息を吹き返した少年に、ギャラリーは一層沸き立った。 「行くよ、ユカリ」 キヨイに促されて気づけば、うたかた荘の面々は見える範囲のどこにもいなかった。それもそうか、とひとり頷く。彼らは目立つことを好まないし、救命はいわば通常業務、彼らにとって日常と変わりないことなのだから。 ゆっくり水を掻きながら一度だけ後ろを振り向いた。邪悪な気配は底の底から殲滅されてしまったようだった。 せめて、と帰りの運転手を申し出たゆかりの提案は通らなかった。澪も白金もゆかりの運転能力をまるっきり信用していないらしい。《見てないものは信じられない》――声を揃えた二人に雪乃が笑った。 「でも本当、かっこよかったです」 クジ運がいいのか悪いのか、ゆかりはふたたび白金の隣に収まっている。今度の同乗メンバーはガク、ツキタケ、エージの3人だ。はしゃぎ疲れたのか3人とも後部座席で打ち上げられた鯨のような姿勢になっている。バックミラーに目をやってくすりと笑った白金はさすがに行きよりも口数が少なかったが、運転に危うさは全くない。 まだ濡れたままの後ろ髪を何気なく見上げ、ゆかりはようやくそれが二色に分かれていることを知った。今までは白一色だと思っていたが、うなじのすぐ上の辺りがわずかに黒い。 白い髪は魂の力が非常に強いことを表すしるしなのだと、以前澪が言っていた。ゆかりの知る案内屋たちは一様にその色を宿している。 「正義の味方の色ですね」 「ん?」 「髪の毛」 「いや、勇一郎さん――冬悟君のお師匠さんは真っ黒だったよ。あの人は天才的な剄のコントロール力の持ち主だった」 遠い記憶を懐かしむように白金は言い、 「だからゆかりちゃんにも可能性はあるよ?どう?」 左手をハンドルから離してゆかりの髪に触れた。 「や、私には無理だなー」 相手を不快に思わせないようにさりげなくその手をどける。白金はあっさり引いた。 「君の職業は《作家》だから?」 「……すごいな白金さん」 「ごめん今適当に言った」 「え、あ、そうですか」 「せっかくだから聞かせてよ。ゆかりちゃんの作家論」 「やだなあ、そんな人様に申し上げるほどのものでは」 「…………」 「目で訴えないでください!前を向いてください!!」 それこそ必死の訴えに、顔を正面に戻した白金はしかし諦めたふうでもなく、いたずらっぽく時折視線をこちらに向けながら黙っている。しばらく沈黙が続いた。 「……私、太宰治が結構好きなんですが」 「へえ」 「あの人は小説でも随筆でも優れた作品をたくさん残してますけど、私が一番好きなのは《緒方氏を殺した者》っていう、亡くなった作家仲間に向けての追悼文なんです」 「また物騒なタイトルだねえ」 「その中にこんなくだりがあるんです。《不幸が、そんなにこわかったら、作家をよすことである。作家精神を捨てることである。不幸にあこがれたことがなかったか。病弱を美しいと思い描いたことがなかったか。敗北に享楽したことがなかったか。不遇を尊敬したことがなかったか。愚かさを愛したことがなかったか》」 どこか面白がるようにザワザワと騒いでいた白金の気配が、ふと静まった。 「《全部、作家は、不幸である。誰もかれも、苦しみ苦しみ生きている。緒方氏を不幸にしたものは、緒方氏の作家である。緒方氏自身の作家精神である。たくましい、一流の作家精神である》――これを読んだとき、目が開いたような気がしました」 「……ゆかりちゃんも愛してるの?その、」 「なかなかハイとは言いにくいですが」 前を向いたまま、ゆかりは柔らかく唇を歪めた。 「愚かさも憎悪も欲も嫉妬も――およそ《よくない》とされる様々なものをも、見捨てられない弱い人間がきっと作家になるんです。大多数の人に嫌われるそれを拾って、よーく眺めて、ありのまま感じたことを書き付けたいと願う業の深い人間が」 だから、 「さっきだってすぐには動けなかった。まず《見ちゃう》んです、何が起きても。さすがに自分が命の危険にさらされたり、前もって心の準備ができてるときは別ですけど。そんな自分は本当に、心の底から人でなしだと思いますが、仕方ないんです。……白金さんたちは本当にすごいと思います。尊い仕事だと思います。私にはとてもできない」 太陽に灼かれた熱が未だ引かないゆかりの首筋を、冷たい風が通り抜けた。 低く響く空調の音が車内を埋める。 ややあって口を開いた白金はいつも通りの笑顔で、 「でもオレだってゆかりちゃんの仕事はできない」 彼女の苦悩を軽やかに肯定する。 サングラスに隠された瞳は相変わらず少しも見えなかったけれども、彼の普段の笑みとは何かが違うような気がした。 「世の中、単純な悪ばかりだったらやりやすいんだけどね。倒すべき悪い奴だと思っていたのが実はもっと悪い奴に操られていたとか、イイ奴だと思っていた仲間が実はとんでもなく悪いことを考えていたとか、そんな話はざらにある。ふふ、なんだか《悪い》って単語がゲシュタルト崩壊起こしてくるけど」 さすがは業界人、オカルト用語にも通じている。などと感心する隙も与えず、白金は常になく真面目な調子で言葉を紡ぐ。 横顔に滲むのは単純な疲労にも見えるけれども、きっともっと別の、深い、 「オレ、こんなナリして意外に思われるかもしれないけど本はよく読むんだよ。別にそんな高尚なこと考えてるわけじゃないし、ゆかりちゃんに話したら笑われるようなラインナップかもしれない。けど、もしかしたらそういう《揺らぎ》をオレは求めているのかもね」 「揺らぎ……?」 「自分が正しいと思うことばかり見ていたら人は間違えるんだよ、必ず。オレは力を持っているから、そんなことは許されない。だから《作家》さんが自分の感性で掴まえたものを書いてくれることはオレにとって――オレたちみたいな一般人にとって、きっととても必要なことなんだ。その才能を授けられたことは、《人でなし》とまで思いながらそれに殉じていることは誇っていい」 ぽっ、と、 体の中心に火が灯ったような気がした。 暖かな感触をそっと抱きしめるように胸に手を当てる。 それはたぶん、ずっと欲しかった言葉で。 「……白金さんはモテますね!」 「ん!?結論おかしくない?」 茶化す彼は、けれどきちんと《わかって》いるのだと何の躊躇いもなく信じられた。 出会って以来、ずっとわだかまっていた圧のようなものがゆっくりと溶けていく。 ゆかりはそっと背後を見やった。陽魂たちは死んだように(いや実際死んでいるのだけれど)動かない。なぜだかひどくほっとした。 (2012.11.12) モドル |